採用の仕事は、他の業務と兼任している人ほど後回しになりがちです。求人票の文章が思いつかない、応募が来たのに返信が翌日以降になってしまう、面接の日程調整でメールが何往復もする。どれも難しい仕事ではないのに、まとまった時間が取れないまま数日が過ぎていきます。

生成AIは、この「文章を書き起こす作業」と「情報を整理する作業」の補助に使えます。一方で、勤務条件の決定、応募者への送信承認、誰を採用するかの判断は、人が責任を持つ工程として残します。任せられない部分を先に決めておかないと、下書きの品質が上がっても運用が不安定になります。

この記事では、採用業務のどこまでをAIに任せ、どこから人が確認するのかを、架空の事務職を例に具体的な手順とプロンプトで整理します。目指すのは、条件の確認や応募者との対話に時間を回せるようにすることです。

採用業務のAI活用は「下書き」と「整理」から

採用業務を工程で分けると、AIが役に立つのは主に5か所です。求人票の文章化、応募受付メールの下書き、日程調整メールの文面づくり、応募者からよく来る質問への回答文の整形、そして面接で使う共通質問の案出しです。

いずれも共通しているのは、「決まっている情報を、読みやすい文章に変える」作業だということです。この記事では、未決定の条件を埋めたり、担当者の確認を経ずに外部へ送信したりする運用には広げません。

工程 AIに任せる部分 人が必ず行う部分
求人票の仕事内容 承認済みのメモを説明文に書き起こす 業務範囲や就業場所などの条件を決め、原文と照合する
応募受付メール 定型の受領連絡の文面を作る 送信前の内容確認と、実際の送信操作
日程調整 候補日時を伝える文面を作る 空き枠の確認と、日時の確定連絡
応募者向けFAQ 承認済みの回答文を読みやすく整える 掲載可否の判断と、想定外の質問への回答
面接の共通質問 職務内容に沿った質問案を出す 質問項目の採否と、聞いてはいけない項目の除外

文面の生成と、内容を確認して承認する工程を分けて運用します。AIに任せる範囲と人が持つ範囲の切り分け方そのものについては、業務にAIが向く場面と向かない場面の境目の考え方も参考になります。

求人票づくりは「条件を決めてから文章を書く」順番で

勤務時間や就業場所の扱いが社内で固まっていなければ、文章だけを整えても求人票は完成しません。AIを使う場合も順番は変わりません。

手順は3ステップです。まず、社内で承認済みの条件をメモに書き出します。次に、そのメモだけを材料にAIへ仕事内容の説明文を書かせます。最後に、出てきた文章とメモを一行ずつ照合し、メモになかった情報が紛れ込んでいないかを確認します。

ここでは架空の事務職を例にします。業務は「受注データ入力、伝票照合、電話の一次受付」です。承認済みのメモを、次のように指示へ含めます。

プロンプト例

次のメモをもとに、求人票の「仕事内容」欄に載せる文章だけを作ってください。

【メモ】
・職種:一般事務
・主な業務:受注データ入力、伝票照合、電話の一次受付
・使用するもの:表計算ソフト、社内の受注管理システム
・未経験可、入社後に手順書を見ながら説明あり

【条件】
・200字程度、です・ます調
・メモに書かれていない情報(残業、転勤、給与、賞与、休日、
  福利厚生、社風、職場の雰囲気)は書かないでください
・推測で補った表現や、根拠のない魅力づけの表現は使わないでください
・求人票として決めておく必要がありそうなのにメモにない項目は、
  本文とは分けて「確認が必要な項目」として箇条書きにしてください

文章化した例(仕事内容の部分のみ・本記事の架空例)

受注データの入力と、伝票の照合を中心にお任せします。表計算ソフトと社内の受注管理システムを使い、受け取った注文内容をシステムへ入力し、伝票の記載と相違がないかを確認します。あわせて、電話の一次受付として、用件をうかがい担当部署へ取り次ぎます。未経験の方も応募いただけます。入社後は手順書を見ながら、業務の進め方を説明します。

確認が必要な項目

  • 就業場所と、その変更の範囲
  • 業務内容の変更の範囲
  • 契約期間(有期の場合は更新の基準と、通算期間または更新回数の上限)
  • 始業・終業時刻、休憩、休日
  • 賃金の額と支払い方法
  • 加入保険
  • 受動喫煙防止の措置
  • 試用期間の有無
  • 募集者の名称

この例は仕事内容欄だけの案です。求人票の完成形ではないため、掲載前に労働条件の各欄をそろえ、必要な明示事項と照合してください。

「メモにない情報を書かない」という指示は、必ず入れてください。指示があっても、AIは求人票らしい文章を作ろうとして「アットホームな職場です」「残業はほとんどありません」といった、誰も確認していない情報を自然に混ぜることがあります。文章として読みやすいぶん、見落としやすいのが厄介なところです。

なお、労働者の募集にあたって明示すべき労働条件は法令で定められており、業務内容、就業場所、賃金、労働時間、休憩、休日、契約期間、加入保険、受動喫煙防止措置などが対象です。2024年4月からは、業務内容と就業場所について「変更の範囲」を示すことや、有期契約の更新基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)が追加されています。項目の正確な範囲は、厚生労働省の資料「募集時等に明示すべき労働条件が追加されます」で確認してください。求人票の記載と、労働契約を結ぶ際の労働条件の明示は別の手続きです。個別の書き方が要件を満たすかどうかは、所管の窓口や専門家にご相談ください。

リクマ

リクマ

文章を上手にする作業は後回しで構いません。先に決めるべきは条件のほうです。空欄のまま書き始めると、AIが埋めた表現が既成事実になってしまうため、確認項目の洗い出しから始めることをおすすめします。

応募者対応は「受領の連絡」から始める

応募が届いてから最初の返信まで間が空く場合は、選考結果を待たず、受領連絡の文面から整えましょう。

プロンプト例

応募書類を受け取ったことを伝える、短いメールの件名と本文を作ってください。

【条件】
・宛名や氏名は入れず、件名と本文を作る
・書類を受け取ったこと、内容を確認してから連絡することを伝える
・不明点があればこのメールに返信してよいことを添える
・社内で承認済みの連絡期限は「3営業日以内」。この期限だけを記載する
・選考結果や合否には触れない
・150字程度、です・ます調

文章化した例(本記事の架空例)

件名:応募書類受領のご連絡

このたびはご応募いただき、ありがとうございます。
応募書類を確かに受け取りました。

内容を確認のうえ、3営業日以内に担当者よりご連絡いたします。
ご不明な点がございましたら、このメールにご返信ください。

この例に入っている「3営業日以内」は、社内で守れると確認し、承認を得た前提で書いています。実際に3営業日で連絡できる体制がないなら、この数字は書かないでください。テンプレートに一度入れた期限は、忙しい時期にも一律で送られてしまいます。

日程調整の文面も同じ考え方です。候補日時を並べたメールは、あくまで打診であって確定の通知ではありません。「以下の日程でご都合はいかがでしょうか」「ご返信いただいた内容をもとに、あらためて確定のご連絡を差し上げます」といった形で、返信を受けてから確定連絡を別に送ることを明示しておくと、行き違いが起きにくくなります。送信前には、面接担当者の予定、会議室、所要時間、候補日の曜日まで確認しましょう。

もう一点、仕組みの前提として押さえておきたいことがあります。メールや予定表を連携していないチャット型の生成AIは、文面を作れても、カレンダーの空き状況を見にいくことも、メールを送信することも、応募者管理システムへ記録することもできません。これらを自動化したい場合は、外部サービスとの連携設定が別途必要になり、その場合でも送信前に人が承認する段階を残しておくことをおすすめします。

応募者から届いたメールをAIに読ませて返信を作らせる使い方は、この記事では前提にしていません。応募書類や問い合わせ本文には氏名や連絡先が含まれます。まずは、社内で承認済みの質問と回答(勤務地の最寄り駅、選考の流れ、持ち物など)をFAQとして整え、それに当てはまる問い合わせだけテンプレートで返す形から始めるのが現実的です。当てはまらない質問は、人が読んで返信します。

リクマ

リクマ

応募者対応では、返信の速さと一緒に「次に何が起きるか」も確認したいところです。約束できる連絡時期と返信先が分かれば、応募者が次の行動を選びやすくなります。

面接は共通質問の準備に使い、評価は人が行う

面接準備でAIが役に立つのは、職務内容から共通質問の案を出す場面です。「受注データ入力、伝票照合、電話の一次受付」という業務であれば、正確さを保つための工夫、数字を扱う作業の経験、電話で用件を聞き取る際に気をつけていること、といった質問案が出てきます。これを担当者が取捨選択し、同じ職種では共通の質問と評価観点を用意します。追加質問も、職務に必要な能力を確かめる範囲で行います。

質問の候補が出た段階で、必ず人が中身を確認してください。採用選考は本人の適性と能力に基づいて行うものとされており、職務と関係のない家族の状況や信条などを尋ねることは適切ではありません。考え方の全体像は、厚生労働省の「公正な採用選考の基本」にまとまっています。質問項目と評価の観点をあらかじめ決めておくことは、この考え方に沿った準備としても、面接ごとのばらつきを減らす意味でも有効です。

AIを使うこと自体が選考で禁じられているわけではありません。厚生労働省の公正な採用選考についてのQ&Aでは、どのような方法を用いる場合でも公正な採用選考の基本にのっとる必要があると示されています。

そのうえで、この記事としておすすめするのは、採否の決定、応募者個人の評価、点数づけの自動生成をAIに任せないことです。順位を並べた一覧は説得力があるように見えますが、その根拠を後から人が検証しづらくなります。評価は、あらかじめ決めた基準に照らして、応募書類や面接での発言という原文を人が確認したうえで行ってください。性格、健康状態、国籍、早期退職の可能性といった推定をAIにさせることも避けるべきです。

個人情報は「入れる前」に条件を決める

履歴書をそのままAIに読ませてよいかは、文面づくりとは分けて考える必要があります。結論から言えば、まず確認すべき点がいくつもあるので、初期導入では個人情報を含まない作業に限定するのが安全です。

個人情報保護委員会は、生成AIサービスの利用に関して、個人情報を入力する場合はその取り扱いが利用目的の達成に必要な範囲かを確認すること、入力された個人データが応答以外の目的で扱われる場合には本人の同意がないと法違反となる可能性があること、機械学習に利用されないかなどを十分に確認することを求めています。詳細は「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」をご確認ください。

ここから先は運用上の提案です。学習に使わない設定にしたから安全、氏名を消したから個人情報ではない、と単純に整理しないほうがよいと考えています。使ってよいサービスと契約形態、入力してよい情報の範囲、アカウントを使える人、履歴の保存期間と削除の方法。この4点に加え、利用目的と契約上の取り扱いを確認してから、扱う情報の範囲を広げてください。社内のルールづくりの進め方は、中小企業の生成AI利用ルールの決め方でも扱っています。

小さく試して、続けるかを決める

最初から採用業務全体に広げる必要はありません。1つの職種、1つのテンプレートから始めます。求人票の仕事内容欄でも、応募受付メールでもかまいません。担当者を1人決め、例えば2〜3週間試します。応募が少ない場合は架空データで動作を確かめ、実際の対応件数が集まってから続けるか判断します。

見るのは3つです。確認作業まで含めた1件あたりの所要時間、応募者への誤った案内が発生した件数、そして下書きに人が手を入れた回数です。時間を計る際は、AIが出した文章を読み直して直す時間まで含めてください。ここを外すと、実際には作業が増えているのに短縮できたように見えます。

リクマ

リクマ

判断材料にするのは、下書きが出るまでの速さではなく、確認と修正まで含めた総作業時間です。ここで前より遅くなるなら、ツールを増やす前に、テンプレートや対象工程を見直すのがおすすめです。

よくある質問

Q. 無料のAIツールでもできますか。
文章の下書きを作る用途であれば、無料版でも試せます。ただし、応募者の情報を扱う段階に進む前に、入力内容が学習に使われないか、履歴をどう管理できるかを契約条件で確認してください。確認できない環境では、個人情報を含まない作業にとどめるのが無難です。

Q. AIが作った文章はそのまま掲載できますか。
そのままの掲載はおすすめしません。AIは書かれていない条件を自然な文章で補ってしまうことがあります。掲載前に、元にしたメモと出力を一行ずつ照合し、社内で決めていない情報が混ざっていないかを確認してください。

Q. 履歴書や応募メールをAIに入力してもよいですか。
入力の可否は、使うサービスの契約や社内で定めた利用目的によって変わります。まずは個人情報を含まない作業から始め、扱う範囲を広げる場合は、利用目的、権限、保存期間を決めたうえで判断してください。個別の適法性の判断が必要な場合は、専門家や所管の窓口にご相談ください。

まとめ

採用業務でAIが効くのは、求人票の仕事内容の書き起こし、受付・日程調整メールの下書き、承認済みFAQの整形、面接の共通質問案です。いずれも、決まっている情報を文章に変える作業だという共通点があります。

この記事の始め方では、条件決定・送信承認・採否判断は人が担います。まず担当者と確認箇所を決めましょう。

AI活用の進め方を広く整理したい方は、Nutritsの資料一覧にある「生成AI導入活用 実践ガイドブック 2026」もご覧ください。採用専用の資料ではなく、業務改善への導入を考えるための資料です。

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まずは公開済みの求人票から、仕事内容の説明を1つだけ書き直してみましょう。

※制度に関する記述は2026年9月4日に確認した公式情報に基づきます。

参考情報