社員がChatGPTなどの生成AIを使い始めたものの、「何を入力してよいのか」「出力をそのまま顧客へ送ってよいのか」が決まっていない。そんな状態で、全面禁止にするか、各自の注意に任せるかで迷っていないでしょうか。

小さな会社の最初の生成AI利用ルールは、何十ページもの規程である必要はありません。大切なのは、入力してよい情報、認める用途、人が確認する場面、問題が起きたときの動きを、一枚で判断できる形にすることです。

この記事では、最初に決めたい8項目、情報と用途の分け方、作成手順、公開・送信前のチェック、問題時の対応までをまとめます。記事の後半に、そのままコピーして自社用へ直せるひな形も用意しました。

なお、本記事は一般的な情報整理です。個別の法的助言、契約判断、情報セキュリティ監査を代替するものではありません。扱う情報や業種によっては、弁護士、情報セキュリティ担当者などへ確認してください。

「機密情報を入力しない」だけでは足りない

社内ルールに「機密情報を入力しない」とだけ書いても、現場では判断が止まります。何が機密なのか、人によって想像する範囲が違うからです。

何が機密かを現場で判断できない

顧客名やパスワードは危険だと分かっても、未公開の企画案、社内だけの業務手順、匿名化した問い合わせ記録はどうでしょうか。公開済みの商品説明でも、第三者の著作物や利用規約に注意が必要な場合があります。

入力する情報を具体例で分類しなければ、「これは大丈夫だと思った」という個人判断が残ります。禁止事項だけでなく、通常利用しやすい例と、責任者の承認が必要な例も同じ文書に置くことが重要です。

出力の責任と公開承認が残る

生成AIは、もっともらしい誤情報を出すことがあります。入力を制限しても、数字、日付、固有名詞、出典、著作権、差別的な表現などを誰も確認せず公開すれば、別の問題が生まれます。

そのため、社内ルールには「AI出力は人が確認する」だけでなく、何を確認するか、誰が最終承認するかを書きます。顧客への返信、広告、ブログ、提案書、自動送信など、外部へ出る用途ほど承認線を明確にします。

問題発生後の停止・報告もルールに含める

誤って情報を入力した、誤情報を公開した、権利者から連絡が来た。このとき、利用停止、公開停止、記録、社内報告、提供事業者への連絡を誰が判断するかまで決めておく必要があります。

入力制限だけを作るのではなく、「使う前」「出す前」「問題が起きた後」を一続きにする。それが実際に動く生成AIガイドラインです。

最初の社内ルールに必要な8項目

小さな会社が最初に一枚へまとめるなら、次の8項目から始めると整理しやすくなります。

  1. 目的と対象者:何のために使い、誰に適用するか
  2. 認めるサービスとアカウント:会社が確認したサービス、契約、アカウント
  3. 入力情報の区分:入力しやすい情報、承認が必要な情報、原則入力しない情報
  4. 用途の区分:利用可、要承認、禁止
  5. 人が確認する項目と承認者:事実、情報、権利、公平性、最終責任
  6. 著作権・公開・顧客向け利用:外部利用前に確認する内容
  7. 問題時の停止・報告・記録:最初の連絡先と初動
  8. 責任者・版・見直し日:誰が更新し、いつ見直すか

総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」は、AIの便益とリスクを一体で捉え、個人情報・機密情報、セキュリティ、偽誤情報、知的財産などへ配慮しながら、人間の判断を介在させる方向を示しています。ただし、このガイドラインに沿えば個別の法令や契約への適合が自動的に保証されるわけではありません。

最初から完成版を狙う必要はありません。一枚に責任者、版番号、次回見直し日を入れ、現場から出た質問を次の版へ反映できる形にします。

リクマ

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小さな会社では、最初から完璧な規程を作り込むより、責任者と見直し日を入れた一枚を動かす方が続けやすいです。迷った例を次版へ足していきましょう。

関連して、導入全体の進め方は「生成AI導入フレームワーク」でも整理しています。

入力情報を「緑・黄・赤」に分ける

「機密かどうか」だけでなく、入力前に取る行動まで含めて3色に分けます。以下は法的な分類ではなく、小さな会社が誤入力を減らすための保守的な社内運用例です。

区分 基本対応 代表例
通常利用しやすい。ただし権利・規約は確認する 自社の公開ページ、公開済み商品説明、個人や取引先を特定できない一般文、架空の練習データ
責任者の承認と利用環境の確認後に扱う 社内限定手順、未公開企画、十分に匿名化した顧客対応記録、コード、外部公開予定の文書
承認済み専用環境と適法性・契約確認がない限り入力しない パスワードやAPIキー、顧客の氏名・連絡先・決済情報、要配慮個人情報、人事・健康情報、預かった非公開資料

緑でも無条件ではない

公開情報なら何でも自由に使えるとは限りません。他社の記事、写真、ロゴ、会員向け資料などは、著作権や利用規約を確認します。自社公開情報も古い場合があるため、AIへ渡す前に現在の内容か確認しましょう。

黄は「有料版なら可」ではない

有料版や法人向けプランという名称だけで判断せず、契約、入力データの学習利用、保存、削除、権限、ログ、共有範囲、管理者機能を確認します。確認した日も記録しておくと、仕様変更時に見直しやすくなります。

赤は初期運用で保守的に扱う

パスワード、APIキー、秘密鍵、認証コードは入力しません。顧客名、連絡先、住所、決済情報、要配慮個人情報、人事評価、健康情報、未公開の売上や契約条件、取引先から預かった資料も、承認済みの環境と必要な確認がない限り入力しない区分に置きます。

個人情報保護委員会は、個人情報を含むプロンプトについて、特定された利用目的に必要な範囲か、サービス提供者が応答生成以外の目的で扱わないかなどを十分に確認するよう注意喚起しています。実際の判断は利用目的、契約、設定、保存方法などで変わるため、サービス名だけで決めないことが大切です。

生成AIへ入力する情報を緑・黄・赤の三段階で分けた社内運用例

※図中の「公開情報」は、自社が公開済みで、権利・利用規約上も利用できると確認した情報を指します。

リクマ

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AIを人前で実演するなら、入力欄だけでなく画面全体を情報として扱います。普段の履歴は開かず、デモ用アカウントと架空資料を使うと、意図しない情報表示を避けやすくなります。

用途を「利用可・要承認・禁止」に分ける

同じ情報でも、使い方によってリスクは変わります。入力情報とは別に、用途も3段階へ分けましょう。

利用可にしやすい用途

  • 自社の公開情報を使った要約や構成案
  • 公開済み文章の表現改善
  • 架空データを使ったテンプレート作成
  • 人が判断する前提のアイデア出し

ここでもAI出力を正解として確定せず、業務で使う前に人が確認します。

要承認にする用途

  • 顧客向け回答、提案、広告、ブログなどの外部公開
  • 契約、労務、採用、法務、会計に関わる文書
  • コード生成と実行、外部サービス操作、自動送信
  • 社内データを使う分析
  • AIエージェントによる複数工程の自動実行

AIへ文章案を作らせることと、その文章を外部へ送ることは別工程です。どこまでは自動でよく、どこから人が承認するかを分けます。「AIに任せていい仕事・任せてはいけない仕事」も、役割分担を決める参考になります。

リクマ

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AIに候補を作らせる工程と、外部へ送る・元データを書き換える工程は分けるのが基本だと考えます。後者は、人が内容と対象を確認してから動かしましょう。

禁止する用途

  • AI出力だけで採用、評価、契約、診断、与信、懲戒などの重要判断を確定する
  • 秘密情報や認証情報を無断で入力する
  • 未確認の情報を事実として外部公開する
  • 権利関係を確認せず、第三者の著作物を大量に複製・公開する

文化庁の資料では、AI利用者による内部ルールなどの予防措置や、外部利用前の既存著作物との類似性確認、問題発生時の対応が整理されています。生成時に使えたことと、広告やWebで公開できることを同じにせず、利用段階でも確認します。

5ステップで一枚のルールを作る

ステップ1:現在の利用を棚卸しする

まず「誰が、どのサービスを、何の業務で、どのアカウントから使っているか」を確認します。会社が把握していない個人利用も、責める前に用途と困りごとを聞きます。

ステップ2:情報と用途を分類する

実際の業務例を、情報の緑・黄・赤と、用途の利用可・要承認・禁止へ置きます。抽象語ではなく、「公開済みの商品説明の要約は利用可」「顧客への返信案は要承認」のように書きます。

ステップ3:認めるサービスを確認する

契約、学習利用、保存、削除、権限、ログ、共有範囲、管理者機能を確認します。確認日と確認者を残し、プラン名だけで安全性を断定しません。

ステップ4:確認者と承認線を決める

出力の事実確認をする人、顧客送信・公開を承認する人、問題時の報告先を決めます。少人数なら同じ人が兼ねても構いませんが、役割名は明記します。

ステップ5:小さく試し、教育して更新する

最初は一つの業務で試し、迷った例と問題例を記録します。サービスの重要変更、事故、用途追加、月次・四半期などの見直し日を更新のきっかけにします。

生成AI社内ルールを棚卸しから試行と更新まで進める5ステップ

デジタル庁の生成AIガイドライン第2.0版は、AIガバナンス、入出力データ、出力品質、インシデント対応、教育、更新などを扱っています。これは政府情報システム向けで、民間の小さな会社へ直接課される義務ではありません。また、2026年8月13日時点では公表済みですが原則施行日前です。一部先行適用を含むため、ここでは少人数向けの構造を考える参考資料として扱います。

そのまま使える一枚テンプレート

次の文章をコピーし、自社の業務例へ差し替えてください。空欄のまま配るのではなく、最低でも各区分へ一つ実例を入れます。

生成AI利用ルール(最小版)

版・責任者・見直し

  • 版:第1版
  • 施行日:社内で運用を始める日
  • 責任者:生成AI利用の相談・承認・事故報告を受ける役割名
  • 次回見直し日:運用開始から1〜3か月後など、自社で実行できる日

1. 目的と対象者

本ルールは、生成AIを業務の下書き・整理・発想支援に安全に利用するため、全役員・従業員・業務委託者のうち会社アカウントを使う人へ適用する。

2. 認めるサービスとアカウント

会社が契約・設定・データ取扱いを確認し、責任者が一覧へ登録したサービスとアカウントだけを業務利用する。個人アカウントで顧客・社内情報を扱わない。

3. 入力情報

  • 緑:自社公開情報、個人を特定できない一般文、架空データは通常利用できる。
  • 黄:社内限定情報、未公開企画、匿名化した業務記録、コードは、責任者が用途と利用環境を確認してから扱う。
  • 赤:認証情報、顧客の氏名・連絡先・決済情報、要配慮個人情報、人事・健康情報、預かった非公開資料は、承認済み専用環境と必要な確認がない限り入力しない。

4. 用途

  • 利用可:公開情報の要約、構成案、表現改善、架空データのテンプレート、アイデア出し。
  • 要承認:顧客返信、広告・記事・提案の公開、契約・労務・法務・会計文書、コード実行、外部操作、自動送信、社内データ分析。
  • 禁止:AI出力だけで重要判断を確定すること、未確認情報を事実として公開すること、権利確認のない大量複製。

5. 出力確認と承認

業務利用前に、事実、個人・機密情報、著作権・ライセンス、公平性、最終責任者を確認する。顧客送信・外部公開・データ書き戻しは、指定承認者の確認後に行う。

6. 著作権と公開

第三者の文章、画像、ロゴ、資料を無断で大量入力・複製しない。外部利用前に、既存著作物との類似性、引用条件、素材の利用許諾、商標・ロゴ、事実関係を確認する。

7. 問題が起きたとき

利用・送信・公開・自動処理を止め、入力内容、出力、サービス、時刻、アカウントを記録し、責任者へ報告する。責任者は必要に応じて削除、公開停止、相手方・提供事業者への連絡、専門家相談を判断し、再発防止を次版へ反映する。

8. 管理・例外申請・質問

責任者が版・施行日・次回見直し日を管理する。判断できない情報や用途は、入力・送信前に責任者へ相談する。急ぎであっても、認証情報や顧客情報を自己判断で入力しない。

公開・送信前の5問チェック

  • 事実:固有名詞、数字、日付、出典URLを一次情報で確認したか。
  • 情報:個人情報、機密、顧客情報、内部URLが残っていないか。
  • 権利:既存著作物、画像、ロゴ、引用、ライセンスを確認したか。
  • 公平性:差別的・一方的な表現や根拠のない評価がないか。
  • 責任:最終確認者と、外部公開・送信の承認者が明確か。

問題が起きたときの最小手順

  1. 生成AIの利用、公開、送信、自動処理を止める。
  2. 入力した情報、出力、サービス、時刻、アカウントを記録する。
  3. 社内の責任者へ報告する。
  4. 個人情報、契約、著作権、セキュリティのどの領域か切り分ける。
  5. 削除、公開停止、相手方・提供事業者への連絡、専門家相談の要否を決める。
  6. 原因と再発防止をルールへ反映する。

法令上の報告義務や期限は事案によって異なります。記事だけで一律に判断せず、影響範囲を確認し、必要に応じて専門家や関係機関へ相談してください。

ルールを形骸化させない運用

禁止だけでなく許可例を増やす

禁止事項ばかり増えると、社員は生成AIを使わなくなるか、会社に相談せず使うようになります。現場から出た質問を集め、「この情報で、この用途なら利用可」「この操作は責任者承認」と具体例へ変えます。

変更時と定期日に見直す

サービスの契約・設定が変わった、用途を追加した、事故やヒヤリがあった、質問が繰り返された。このタイミングで見直します。月次・四半期など、自社が続けられる定期日も決めましょう。

IPA掲載の「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン」も、利用ガイドラインの文書化・共有、入力禁止事項、生成物の扱い、利用者のフィードバックによる継続改善を扱っています。ただし、これは中核人材育成プログラムの卒業プロジェクト成果物で、IPAまたは産業サイバーセキュリティセンターの公式見解を代表するものではありません。

リクマ

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ルールが守られないとき、社員の意識だけを責めないことも大切です。禁止例が曖昧か、承認が遅いか、代わりに使える安全な方法がないかを先に確認します。

生成AI導入で起きやすい別のつまずきは「AI導入が失敗する5つのパターン」でも確認できます。

まとめ:禁止事項ではなく、判断と承認の境界を一枚にする

小さな会社の生成AI利用ルールは、全面禁止と無制限利用の中間に、判断できる境界を作るものです。

  • 目的、サービス、入力、用途、確認、権利、事故対応、更新の8項目を一枚にする
  • 情報は緑・黄・赤、用途は利用可・要承認・禁止に分ける
  • サービス名やプラン名だけで安全と断定しない
  • 外部公開・送信・書き戻しは人の確認後に行う
  • 問題時の停止・記録・報告と、次版への反映まで決める

今日の一手は、現在の生成AI利用を一件だけ棚卸しすることです。その業務で使う情報と用途を二つの3区分へ置けば、一枚目のルールを作り始められます。

本文のひな形を保存して、自社の実例へ置き換えてみてください。ほかの業務改善資料は無料資料一覧で確認できます。専用の生成AIルール雛形が必要な場合や、承認線の設計まで相談したい場合はAI活用支援もご覧ください。

よくある質問

ChatGPTなどの生成AIを会社で全面禁止すべきですか?

情報や用途を区分できない段階で、一時的に利用範囲を狭める判断はあり得ます。ただし、全面禁止だけでは無断利用や判断のばらつきが残ることがあります。認めるサービス、入力情報、用途、承認者を具体化し、安全に使える範囲も示す方が運用しやすくなります。

有料版や法人版なら機密情報を入力しても安全ですか?

名称だけでは判断できません。契約、学習利用、保存、削除、権限、ログ、共有範囲、管理者機能と、自社の情報区分・利用目的を確認してください。仕様は変わり得るため、確認日も記録します。

社内ルールは誰が作るべきですか?

経営者または責任者だけで完成させず、実際の利用者と、情報セキュリティ・法務・個人情報などを確認できる人を必要に応じて加えます。少人数なら役割を兼ねても構いませんが、相談先と最終承認者は明記します。

生成AIの出力は必ず人が確認する必要がありますか?

業務で利用するなら、目的と影響に応じた人の確認を置くのが基本です。特に顧客向け回答、外部公開、契約・労務・法務・会計、重要判断、外部操作は、事実・情報・権利と承認者を確認してください。

参考情報