「AIを使ってみよう」と社内に呼びかけても、実際に手を動かす人はなかなか増えません。そんなときは、操作の説明だけで終わらない勉強会から始めてみてください。全員が最初の1回を、その場で終えられる勉強会です。
この記事は、初心者が中心の中小企業で、60分の社内勉強会を開くための進行台本です。次の内容を通しで示します。
- 事前の準備
- 当日の時間割
- そのままコピーして使える演習の課題
- 採点のしかた
- 翌日と1週間後のフォロー
はじめに前提を1つ。ここでの「1時間」は研修の枠の設計で、効果を保証する数字ではありません。60分で全員が使いこなせるとは言えません。狙えるのは、「自分の手で一度動かし、翌日に試す業務を1つ決める」ところまでです。その先の定着には、別の仕組みが必要です。
なお、この記事の構成・人数・演習・評価の基準は、すべてNutritsの運営案です。公的に認定されたカリキュラムではありません。
到達ゴールを「使い始めた」で決める
ゴールが「理解する」だけだと、参加者が何をできるようになったか確かめにくくなります。そこで、ゴールを行動で決めます。
この勉強会では、参加者全員が次の4つを終えた状態を完了とします。
- 自分の端末から、1人ずつプロンプトを入力した
- 出力を、自分の目で確かめた
- 追加の指示を出して、一度は直した
- 翌日に自分が試す業務を1つ決めて、書き出した
大事なのは、見学は完了に数えないことです。隣の人の画面をのぞいていた人や、通信のトラブルで最後まで入力できなかった人は、「未操作者」として記録します。後日、15分ほどの補講に回しましょう。入力できなかった理由を残しておくと、補講で手助けする場所がはっきりします。
Nutritsは2026年6月、初めてAI活用の講座を担当しました。準備で意識したのは、「見てくれる人が、できるだけ持ち帰って使えるようにする」ことです。理解して終わりにせず、持ち帰って使うところまでを目指す。この記事のゴールと同じ考え方です。
IPAは「AI利活用のための人材育成」で、業務でAIを使う人には、効果的で安全な使い方のスキルが求められると整理しています。ただし、これは60分という枠が有効だという裏づけではありません。この記事の時間配分は、運営上の設計です。
想定する規模は、参加者5〜10名、講師1人+補助1人です。進行が崩れにくい運営の例で、統計や標準ではありません。10名を超えるなら、補助を増やすか、回を分けてください。
事前の準備:当日にやらないことを決める
60分のうち、説明に使えるのは実質7分ほどです。準備で減らせるものは、すべて前日までに減らします。
会社が承認した環境とログインは、必ず事前に済ませておきます。当日にアカウントを作ったりアプリを入れたりすると、実習の時間が短くなります。開催日の3営業日前に案内を出し、前日までに「ログインできた」と返信をもらう運用にしてください。
準備のチェックリスト(開催前)
| 項目 | 担当 | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 会社承認済みAIツールの決定と社内ルールの明文化 | 事務局 | 開催1週間前 |
| 参加者全員のアカウント発行・ログイン確認 | 事務局+情報システム | 前日まで |
| 各自の端末(PC推奨)と通信の動作確認 | 参加者本人 | 前日まで |
| 演習素材・プロンプトの印刷またはチャット貼付準備 | 講師 | 前日まで |
| 補助役の役割共有(詰まった人の個別対応) | 講師 | 前日まで |
| 未操作者が出た場合の補講日程の仮押さえ | 事務局 | 開催前 |
この演習では、実在の顧客データを使いません。アカウントの共有、作った案内のメール送信、プログラムの実行も要りません。AIへの入力は利用サービスに送られるため、承認済みの環境と、配った架空の素材を使います。実データを持ち込むかの判断を参加者に任せず、講師が同じ架空の素材を配りましょう。操作と確認に集中しやすくなります。
説明に使う言葉も、前もって準備しておきたいところです。Nutritsが初めての講座で用意したのは、次の3つでした。
- スライド
- トークスクリプト(話す原稿)
- 告知のチラシ
API・MCP・スキルといった言葉は、初心者向けに言い換えて説明しました。話し方で意識したのは、「全員を友人のように見立てて、フレンドリーに会話する」ことです。終了後には、「続けて講師をやってほしい」「他の団体でもやってほしい」と声をかけられました。
60分の時間割
合計60分です。説明を薄く、実習を厚く配分しています。
| 時間 | 分数 | 内容 | 進行の要点 |
|---|---|---|---|
| 0〜5分 | 5分 | ゴールとルールの確認 | 完了条件4つを口頭で読み上げる。禁止事項(実データ・機密情報を入れない)を明示 |
| 5〜12分 | 7分 | 講師デモ | 講師が画面共有で共通課題を1回だけ実演。解説は最小限 |
| 12〜25分 | 13分 | 共通課題(全員入力) | 一人ずつ自分の端末で入力し出力を得る。補助役が巡回 |
| 25〜38分 | 13分 | 改善と照合 | 追加指示で修正し、チェックリストで自己採点 |
| 38〜50分 | 12分 | 職種別応用 | 共通素材を普段使う形式に変え、再度照合する |
| 50〜57分 | 7分 | 共有 | 2〜3名が画面を見せて一言。全員発表はしない |
| 57〜60分 | 3分 | 退出チェック | 完了条件4つを確認。翌日試す業務を1行で書き、未完了項目と補講対象者を記録 |
デモを7分に抑えているのは、わざとです。講師の話が長いほど、参加者の手は止まります。うまく説明することより、12分の時点で全員のカーソルが動いている状態を作ることを優先してください。
Nutritsが2026年8月に担当した2回目の講座も、手を動かす形にしました。30分のハンズオン(参加者が手を動かす形式)で、資料は29ページです。題材は、次の3つでした。
- 見積依頼から、見積書のPDFを作る
- 会議の書き起こしから、議事録とToDoを作る
- 商談の書き起こしから、要約とメールの下書きを作る
共通の課題:架空の社内案内を作る
全員が同じ題材から始めます。正解の形が見えやすく、間違いも指摘しやすいからです。
架空の素材(そのまま配布)
【架空設定・実在の会社ではありません】
会社名:サンプル商事(架空)
対象:本社勤務の全社員
内容:3階の複合機を新機種に入れ替える
停止日時:2026年11月10日(火)9:00〜15:00
停止中の代替:2階の複合機を使用する
問い合わせ先:総務部 田中(架空)
補足:入れ替え後の使い方説明会は別途案内する
この素材に書かれていない期限・担当・理由を、参加者もAIも補ってはいけません。日付・曜日・氏名を含め、すべて演習用の架空の設定です。これが、あとの採点の基準になります。
コピペ用のプロンプト
MicrosoftはCopilot向けの解説で、目的・背景・情報源・期待する成果を伝え、追加の指示で仕上げる考え方を示しています。以下の日本語の課題は、その骨組みをふまえたNutritsのオリジナルです。
【目的】社内向けのお知らせ文を作成してください。
【背景】社内の複合機を入れ替えるため、一時的に使えなくなります。
全社員に事前に周知し、当日の混乱を防ぎたいです。
【材料】以下はすべて架空の演習用情報です。この情報だけを使ってください。ここに書かれていない
日付・担当者・理由を追加しないでください。
- 会社名:サンプル商事
- 対象:本社勤務の全社員
- 内容:3階の複合機を新機種に入れ替える
- 停止日時:2026年11月10日(火)9:00〜15:00
- 停止中の代替:2階の複合機を使用する
- 問い合わせ先:総務部 田中
- 入れ替え後の使い方説明会は別途案内する
【仕上がり】
- 社内メール向けの文章
- 件名を1行つける
- 本文は400字以内
- ですます調で統一
- 箇条書きを使ってよい
追加の指示(25〜38分で使う)
一度出力が出たら、全員が「250字以内への短縮」か「件名の改善」のどちらかを実行します。そのあと、全員が元の材料と照らし合わせます。必要なら、さらに直す指示を出してください。これが完了条件の3つ目です。
- 「もう少し短くしてください。本文250字以内にしてください」
- 「件名の候補を3案出し、その中から一番分かりやすい1案を付けた完成文にしてください」
- 「材料にない情報を削除し、材料にある対象・日時・場所・代替手段・問い合わせ先・説明会の扱いは残してください」
- 「初めて読む社員にも伝わるように専門用語を減らし、対象者は本社勤務の全社員のままにしてください」
追加の指示でAI自身に確かめさせても、それで点検は終わりません。参加者が元の材料を横に置き、1項目ずつ照らし合わせます。文字数も、AIの自己申告をうのみにしないでください。エディターの文字数の表示などで確かめます。
採点のチェックリスト(自己採点)
- 件名が1行ついているか。
- 対象が「本社勤務の全社員」、入れ替える場所が「3階」になっているか。
- 停止の日時が「2026年11月10日(火)9:00〜15:00」と一致しているか。
- 停止中は「2階の複合機」を使うと書かれているか。
- 問い合わせ先が「総務部 田中」になっているか。
- 使い方の説明会は「別途案内」のままで、日時を作っていないか。
- 材料にない担当者・理由・期限を足していないか。
- 最後に指定した文字数以内で、ですます調になっているか。
日時・場所・対象・代わりの手段・問い合わせ先・決まっていない事項は、すべて元の材料と一致していることが必須です。1つでも誤りや抜けがあれば、直してもう一度確かめてください。
そのうえで件名、文字数、文体を確かめ、条件をすべて満たしたら完了です。追加の指示で250字以内に変えた場合は、最後に指定した条件で数えます。文章のうまさを競う採点にはしません。
誤りの見つけ方(講師が作ったサンプル)
【この例は講師が誤りを仕込んで作成したサンプルです。AIの実際の出力を測定したものではありません】
件名:複合機入れ替えのお知らせ
来週、3階の複合機を入れ替えます。ご不便をおかけします。
復旧予定は未定です。ご不明点は担当までご連絡ください。
このサンプルには、3つの問題があります。
- 日時が抜けている
- 代わりの手段と、問い合わせ先が抜けている
- 「復旧予定は未定」という、材料と違う記述がある
材料にない情報が混ざることがある。だから人が照らし合わせる工程が必要。このことを、改善と照合の13分のうち、最後の5分で確かめます。
IPAの「データ利活用入門ガイドブック レッスン3-2」(p.16〜17)でも、関連する内容が扱われています。プロンプトの改善、事実と違う出力が出うること、信頼できる情報源での確認、個人情報・機密情報の扱い、規約や社内ルールの確認です。
出典:IPA「データ利活用入門ガイドブック レッスン3-2」(PDF)
当日は、次の3点を実習中にも確かめます。
- 承認済みの環境と、架空の素材を使う
- 元の資料と照らし合わせる
- 判断に迷ったら、手を止めて講師に聞く
職種別の応用とトラブルへの対応
38〜50分は、共通の課題の型を、自分の仕事に置き換える時間です。ここでも、共通の課題と同じ架空の素材を使います。
実際の顧客名だけを別の名前にしても、金額・経緯・条件から案件が分かることがあります。実データの持ち込みは次回以降、社内ルールを確かめてからにします。
| 職種 | 置き換える題材の例 |
|---|---|
| 営業 | 同じ複合機案内を、外出中に携帯で読む社員向けの短いメールにする。対象・日時・場所・代替手段・問い合わせ先・説明会の扱いを残す |
| 事務・総務 | 同じ素材から「いつ使えないか」「代わりに何を使うか」「誰に聞くか」などの社内FAQを作る。素材の重要情報をすべて含める |
| 現場・製造 | 同じ案内を、社内の設備に不慣れな新人にも伝わる言葉にする。停止中に3階の機器を使わないことと2階の代替手段を明確にする |
| 管理職 | 同じ素材から朝礼で読み上げる250字以内の案内を作る。対象・日時・場所・代替手段・問い合わせ先・説明会の扱いを残す |
新しい業務データを用意する必要はありません。共通の素材の情報を保ったまま、ふだん使う形に変える練習です。12分の配分の目安は、次のとおりです。
- 最初の2分:形を選ぶ
- 次の5分:生成・修正
- 残りの5分:原文と照らし合わせる
当日起きやすいつまずきへの対応
端末の差:スマートフォンでは、長い文章の貼り付けや原文との比較に時間がかかることがあります。事前に端末を聞き、必要なら貸し出し用のPCを用意します。各自の承認済みアカウントで操作し、貸し出しのあとはログアウトを確かめてください。
利用回数の制限や障害:使える回数や機能は、ツール・プラン・使い方で違います。講師は、入力と修正の両方ができるか、事前に試してください。当日止まった人には、紙の誤り入りの例の照合に参加してもらい、操作の部分は補講に回します。他人のアカウントを借りたり、見学だけで操作の完了に数えたりはしません。
初心者と経験者が混ざっている:経験者には、「材料にない情報が混ざっていないか、理由をつけて指摘する」追加の課題を渡します。本人が同意すれば、隣の人の手助けをお願いしてもかまいません。ただし、入力や修正の代行はしないルールにします。
オンラインの参加:画面共有だけでは、つまずいている人が見えません。12分の実習の始まりと同時に、「入力できたら、チャットに『できた』とだけ書く」ルールを置きます。5分たっても反応がない人には、補助の人が個別に連絡します。ブレイクアウトは60分の枠では時間を取られるので使いません。
翌日と1週間後のフォロー
勉強会を次の業務につなげるため、確かめる日も先に決めておきます。
翌日(開催の翌営業日):退出のときに書いた「翌日試す業務」を、実際にやったかだけを聞きます。かかるのは1分です。やっていない人を責めず、つまずいた箇所を1行で書いてもらいます。
1週間後:ここで見るのは、使った人数だけではありません。次の4点を確かめます。
| 確認する項目 | 聞き方の例 |
|---|---|
| 修正を含めた所要時間 | 「AIの出力を直す時間まで含めて、従来より速くなりましたか」 |
| 出力の品質 | 「そのまま使えましたか。どこを直しましたか」 |
| 使わなかった理由 | 「使わなかった業務があれば、その理由を教えてください」 |
| 次に試したいこと | 「あと1つ試すとしたら何ですか」 |
回答は、本人の申告をもとに集めます。全員のチャットの記録を集めたり、顧客データを含む出力を出させたりはしません。集めるのは、使った業務の種類、かかった時間の目安、困った点で十分です。
未操作者への補講は、この1週間のうちに済ませます。15分ほどを目安に枠を取ります。環境の問題が残っているなら、解決してから日程を決め直します。
1回の勉強会で変わるのは、ここまでです。数か月かけて定着させる方法は、中小企業のAI社内活用を進める記事もあわせて読んでみてください。
よくある質問
参加者が全員初心者でも、60分で足りますか。
共通の課題を1題に絞り、ログインを事前に済ませてあれば、収まる設計です。5〜10名で「1人1回入力して、1回直す」ところまでです。ただし、使いこなせることは保証しません。60分は、入口をそろえるための枠です。
講師ができる社内の人材がいません。
講師に、高度な開発の知識は必須ではありません。ただし、社内の利用ルールを説明でき、演習の入力・修正・原文との照合を事前に通せる人が必要です。答えられない質問の相談先も決めておきましょう。準備や当日の補助を担う人がいない場合は、外部に相談するのも選択肢です。
実際の業務データを使ったほうが、実感がわくのでは。
初回はおすすめしません。データの扱いに気を取られると手が止まり、機密情報が混ざるリスクも生まれます。初回は共通の架空の素材で型を通し、応用の12分でも同じ情報をふだんの形に変えます。実データで試すのは、使える範囲と扱いを社内で確かめてからにしましょう。
参加できなかった人はどうしますか。
補講に回します。録画を見るのは「見学」なので、完了には数えません。完了の条件は、自分の端末で入力し、出力を確かめ、直し、翌日試す業務を決めることです。
まとめ
60分の勉強会で狙うのは、理解ではなく、最初の1回です。やることは次のとおりです。
- 事前にログインを済ませる
- 架空の素材で、共通の課題を1題だけ用意する
- 全員に入力と修正をしてもらう
- 翌日試す業務を書いてもらう
ここまでを終えられたか、確かめるところから始めましょう。
一方で、1回の勉強会は入口にすぎません。誰がどこでつまずくか、どの業務に効くかは、会社ごとに違います。2回目以降の設計は、その結果を見てから決めるべきものです。
自社に合わせた研修の設計や、2回目以降の組み立てを相談したい場合は、AI活用支援のご案内からお問い合わせください。今の環境と参加者の状況をうかがったうえで、進め方を一緒に考えます。
自社に合うAI勉強会の題材や進め方から相談したい方へ
FREE DIAGNOSIS
無料Web診断で、サイトの課題と改善の優先順位を整理します。
サイトの課題と改善の優先順位を整理してお届けします。無理な営業は行いません。
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- 03最短3営業日でご報告










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